東京家庭裁判所における遺産分割調停の進行の流れ

1 はじめに

今回は、私が実際に東京家庭裁判所に申し立てた遺産分割調停事件において、東京家庭裁判所において実際にどのような流れで手続が進んだか説明したいと思います。

おそらく、現時点の東京家庭裁判所における実務上の運用については、おそらくあまり実務上の本にも書いてありませんので、素人の方はもちろん、弁護士にも参考になる記事になるかと思います。

2 調停委員について

まず、東京家庭裁判所に遺産分割調停では、調停委員という裁判所の調停担当者が2名つきます。男女のペアです。調停委員は、様々なバックグラウンドを持った方がいますが、中にも現役の弁護士もいます。中高年の方が多いイメージです。

遺産分割調停事件ごとに、調停委員2名と担当の裁判官が配置され、これを「裁判体」などと呼んだりします。事件を担当する裁判所のチームのようなものと理解すればいいでしょう。

調停委員は、遺産分割調停の申立人と相手方の両方の言い分を交互にヒアリングしていきます。大体、1回の調停期日だと2時間くらいですが、申立人30分→相手方30分→申立人30分→相手方30分などといったように、交互にヒアリングしていきます。

調停委員は、当事者の両方からヒアリングした内容を裁判官に報告し、必要に応じて調停に進め方について担当裁判官に指示を仰いだりします。

3 調停期日の指定・期間について

調停期日の終わりには、次回の調停期日の日時を決めると共に、次回調停期日までに、当事者のそれぞれが次回調停期日までに準備してくる「宿題」について整理・指示されることが通常の流れです。

東京家庭裁判所ですと、調停は大体1か月半から2か月に1回くらいのペースで指定されることが多いです。1か月に1回くらいという人もいるかもしれませんが、実際には期日が混み合っていることが多く、1か月後に設定されることはほとんどありません。

ちなみに、私は、早めに進めたい遺産分割調停事件については、調停期日を短い期間で設定してもらうためのテクニックを使っています。それは、次回調停期日の調整のときに2回連続で期日を決めてもらう事です。つまり、次回調停期日と、次々回調停期日を一気に指定してもらうことをお願いしています。調停を早く進めたい方は是非参考にして下さい。

4 「遺産の範囲」に関する中間合意について

東京家庭裁判所では、まずは「遺産の範囲」を確定させることを先にやります。

「遺産の範囲」とは、簡単にいうと、遺産分割の対象となる財産が何なのかを決めるということです。例えば、遺産に含めるのか、含めないのか争いがある財産があって話がまとまらないといったような場合には、遺産分割調停とは別の手続で遺産の範囲を決めてきてから、遺産分割調停に出直してこいということになります。また、一方の当事者から、相手方から主張されている遺産の他にも遺産があるはず(遺産が一部漏れている)という主張がされることもあります。

遺産分割の対象をまずは決めないと、その先の遺産をどのように分けるかという話し合いをしても意味がないので、このような運用がとられているのだと思います。つまり、「遺産の範囲」を確定させることが、遺産を具体的にどのように分けるかという「遺産分割の方法」を話し合う前提になるということです。

そして、当事者の間で「遺産の範囲」について争いがないという合意ができると、遺産の範囲を確定させる「中間合意」がなされる運用になっています。この「中間合意」とは、調停委員2名、担当裁判官、当事者全員が調停室に集まって、裁判官が「遺産の範囲は、・・・・・とすることで合意するということでよろしいか。」と確認をして、裁判所において記録として残される手続になります。

この「中間合意」の法的拘束力は当事者間の間で当然に生じるものではないですが、あとに述べる遺産分割審判が裁判所によってなされる場合には、この遺産の範囲に関する「中間合意」に沿った審判がなされることになりますので、その意味では重要な意味を持つことになります。

5 遺産分割の方法の協議

「遺産の範囲」の中間合意ができたら、本題の遺産の分け方を協議していく段階に入ります。確定した遺産の対象について、どのような方法、配分、条件で分けるのかについて話し合うことを「遺産分割の方法の協議」といいます。

具体的には、遺産の分け方については、大きく分けて、代償分割、換価分割に分けられます。代償分割というのは、特定の遺産を特定の相続人に相続させる代わりに一定のお金を支払う分け方をいいます。換価分割とは、売却や解約処分によって換金した上で相続人に配分する方法です。

遺産の種類や金額によって、代償分割の方法によるのか、換価分割の方法によるのか、遺産分割の方法について申立人と相手方に意向を確認していくことになります。

6 不動産がある場合の鑑定手続

遺産に不動産がある場合には、遺産分割の方法についての調停進行に注意をしなければいけません。不動産の遺産分割については、代償分割、換価分割、現物分割の3通りに分かれます。

ここで代償分割を希望している相続人がいる場合には、不動産の金額(時価)に応じた代償金の金額について合意をする必要があります。不動産の金額ないし代償金の金額について、当事者の話し合いで決まらないことも多いため、その場合には裁判所において「不動産鑑定手続」が実施されることになります。

「不動産鑑定手続」とは、裁判所が選任した不動産鑑定士によって遺産分割対象の不動産の評価額が決定するための手続です。不動産鑑定手続によって不動産の評価額を決定することによって、当事者間における不動産の評価額に関する争いが解決し、代償金の金額を決定するために用いられることが多いです。

不動産鑑定手続にかかる期間については、3か月程度要することが一般的です。また、鑑定手続費用については、対象となる不動産の価格にもよりますが、私の担当した事件では70万円から100万円の範囲でした。鑑定手続費用については、申立人と相手方の相続分に応じて負担することが一般的かと思います。

このように、遺産分割の対象に不動産が含まれる場合に代償分割について問題になる場合には、その前提として不動産鑑定手続が行われることがありますので、手続の流れにおいて頭に入れておく必要があります。

7 遺産分割審判に移行するまでの流れ

遺産分割調停において当事者で遺産の分け方について合意に至らないと、遺産分割調停は不調となり、審判に自動的に移行されます。

ここで、注意が必要なのは、東京家庭裁判所においては、遺産分割審判は基本的に1回の期日で終わることを想定されているということです。遺産分割審判に移行する前段階の調停手続において、審判に移行した後に裁判所がすぐに審判できるように争点に関する協議や資料の提出を全てやり尽くしておくという運用がとられています。

そのため、遺産分割調停における当事者方法の意見の食い違いが大きくて、調停において協議がまとまる可能性が低いことを理由に調停を不調にして審判移行してほしいと意見を述べたとしても、裁判所に拒否されることもあります。私が実際に担当した事件においても、実際に遺産分割審判に速やかに移行することを求めても、まだ調停段階で協議すべき事項が残っているとして、担当裁判官から審判移行を拒否されたこともありました。

このように、東京家庭裁判所の運用においては、調停段階では審判移行したら速やかに審判ができるように、調停段階で全ての協議事項・争点について当事者に主張・立証を尽くさせておくという運用がとれています。東京家庭裁判所においては、審判段階において訴訟のようなイメージで当事者双方が主張立証を本格的に行うことは基本的に想定されておりませんので、調停段階においては、このような東京家庭裁判所における審判移行までの運用を踏まえて、早い段階での主張・立証を念頭に準備を進めていく必要があるでしょう。