遺産分割調停における不動産鑑定手続について

1 はじめに

遺産分割調停場合に場合に、調停手続の中で不動産鑑定手続を行うことがあります。

不動産鑑定手続は一般の方には馴染みのない手続ですし、専門家の方でも経験しないとイメージが湧かない手続だと思います。

そこで、私が最近取り扱った遺産分割調停手続で経験した不動産鑑定手続の流れを例に挙げながら説明したいと思います。

2 不動産鑑定手続はどういった場合に必要になるのか

遺産分割調停手続において、裁判所から不動産鑑定手続をするように勧告されることがあります。それはいったいどのような場合でしょうか。

遺産分割の方法として、代償分割という方法がとられることがあります。代償分割というのは、例えば、特定の相続人が不動産を全て取得する代わりに、不動産の価格に応じた代償金を他の相続人が取得するといったような分割方法です。

このような代償分割をする場合には、不動産の金額をいくらと評価するかによって、代償金の金額が変わってくることから、不動産の評価額について相続人間で争いになるケースがよくあります。不動産を取得して代償金を支払う方の相続人としては、できるだけ不動産の評価額は低いんだと主張することになりますし、一方で、代償金を受け取る側の相続人としては、できるだけ不動産の評価額は高いんだと主張することになります。

私が最近取り扱った遺産分割調停手続においても、相手方の相続人から代償分割が主張され、不動産の評価額が争いになったことから裁判所から不動産鑑定手続を実施するように勧告がなされました。

3 不動産鑑定は誰がやるのか

遺産分割調停において不動産鑑定手続を実施するということになり、当事者がそれに同意した場合には、不動産鑑定手続を実施する専門家が裁判所から選任されることになります。そして、裁判所から選任されるのは「不動産鑑定士」になります。

不動産鑑定士とは、不動産の評価額などを鑑定する国家資格を有する専門家で、裁判所から選任されるのは、裁判所の不動産鑑定士の名簿リストから裁判所が無作為に選任にすることになります。あくまで、中立公平な立場で不動産の評価額などを鑑定することから、裁判の当事者とは無関係な鑑定士を選任する必要があるのです。

4 不動産鑑定費用の金額と支払方法など

不動産鑑定士が選任されたら、不動産鑑定士によって鑑定手続が進められていくことになりますが、もちろん無料ではなく、鑑定費用がかかります。

鑑定費用については選任された鑑定士や不動産の種類や金額にもよりますが、50万円から100万円の範囲に収まることがほとんどだと思います。

ちなみに、私が扱った事案では、鑑定対象の不動産が都内の一等地であったこともあり、高めの約100万円でした。

この鑑定費用の負担については、法定相続分に応じて各相続人が負担することになる取り扱いが一般的です。そして、鑑定費用の支払いについては、鑑定手続が開始する前に、裁判所に対して直接支払うことなります。

5 鑑定手続の具体的な流れ

不動産鑑定手続の流れについては、選任された不動産鑑定士にある程度は任されていますが、裁判所から不動産鑑定士に対して鑑定書を提出する期限が指示がなされることになります。

私が最近取り扱った事案では、まず、不動産鑑定士から鑑定に必要な不動産関係資料(建物図面や固定資産税納税通知書など)を提出するように指示書が送付されてきました。

次に、不動産鑑定士から現地調査を実施する日程の調整の連絡がきました。対象の不動産に相続人が住んでいるときは敷地内に入ったりするので立会は必須ですが、対象不動産に住んでいない相続人であっても、立会を求められることが一般的です。現地調査の立会は基本的には任意ですが、直接現地で説明をした方がいいような状況があるようなときは立ち会う方がいいでしょう。

現地調査については、土地境界の境界標の有無や位置関係、建物の外壁や内部の状況が図面と整合しているかなど、不動産鑑定士によって詳細に調査が行われることになります。

現地調査のあとは、不動産鑑定士が鑑定書を作成して、裁判所から定められた提出期限までに裁判所に提出がなされることになります。

6 不動産鑑定書の作成後

不動産鑑定士が不動産鑑定に関する鑑定書を作成して裁判所に提出すると、裁判所から鑑定書ができあがったので取りに来るように連絡があります。

そして、鑑定書に記載されている内容を当事者がそれぞれ確認し、鑑定内容に疑問点などがある場合には鑑定士に質問状を送付して回答をもとめることもできたりします。鑑定書の内容に対しては当事者から意見が提出されることもありますが、仮に一方の当事者が鑑定内容に不満があったとしても、裁判所は鑑定士が作成した鑑定書の内容に沿って不動産評価額を判断していくことになります。

以上のように、不動産鑑定がなされると不動産の評価額が決まることになるので、鑑定書に沿って遺産分割協議がなされて遺産分割協議が成立することも多いですし、仮に鑑定結果に対して不満を持つ当事者がいたとしても、遺産分割審判においては問答無用で裁判所は不動産鑑定における鑑定結果(鑑定書に記載されている不動産評価額)を前提として審判をすることなります。