相続債務を調査するときの3つのポイント
1 はじめに
例えば、亡くなった方を相続する立場にあるものの、関係が疎遠だったりした場合には、財産がある程度あることがわかっていたとしても、負債までは詳しく分からないというケースが多いです。このような亡くなった方の負債は「相続債務」といいますが、この相続債務が仮にプラスの財産を上回るような場合には、相続放棄などの手段を使って遺産を放棄することも検討しなければいけなくなります。そのため、相続債務の調査は、相続人にとって遺産相続の過程で非常に重要な作業といえます。相続債務を調査する際に留意すべきポイントは、主に以下の3つです。
2 ポイント1:信用情報機関に対する照会
信用情報機関は、個人や法人の信用情報を管理する機関であり、借入や返済状況に関する情報が記録されています。相続が発生した場合、被相続人がどのような借金を抱えていたのかを調べるために、信用情報機関に照会することが非常に有効です。
信用情報機関にはどのような情報があるか? 信用情報機関には、被相続人が過去に契約したローンやクレジットカードの支払い状況、現在進行中の借入残高、滞納状況などが記録されています。これらの情報を確認することで、被相続人が抱えていた借金の詳細がわかり、相続人が引き継ぐべき債務を特定することができます。
信用情報機関に照会する方法 信用情報機関への照会は、通常、本人確認書類を提出し、所定の手続きを踏んで行います。日本には主要な信用情報機関として「CIC(シー・アイ・シー)」「JICC(日本信用情報機構)」「KSC(全国銀行個人信用情報センター)」などがあります。各機関に問い合わせることで、被相続人のクレジットやローンの情報を取得することができます。
照会に必要な書類や手続きについては、各信用情報機関のホームページに記載されており、専門家に依頼しなくても調べながらできる場合もあるかと思いますが、信用情報機関によっては相続関係を証明する公的書類である「法定相続情報一覧図」の提出を求めるところもあります。そして、法定相続情報一覧図の取得については、やや専門的な作業になることから、専門家のサポートを受けながら取得することをおすすめします。
注意点 としては、信用情報機関から得られる情報には限りがあり、全ての債務が網羅されているわけではありません。例えば、個人間の借金や、保証人になっていた場合の債務などは信用情報に反映されないこともあります。従って、他の調査方法と併せて行うことが大切です。
3 ポイント2:被相続人の自宅の郵送物を隈なく調べる
被相続人が受け取った郵便物は、相続債務を特定するための重要な手掛かりになります。銀行からの通知書、クレジットカードの利用明細、ローンの支払い請求書など、債務に関連する文書が自宅に届いていることが多いからです。
どのような郵送物を調べるべきか?
金融機関からの通知書:ローンの返済スケジュールや借入残高が記載された通知が届いている場合、それが債務の存在を示しています。
クレジットカードの請求書:未払い残高やカードローンの残高が記載されているため、クレジットカードを利用している場合はその請求書を確認しましょう。
ローン契約書や借入明細:住宅ローンや車のローンなど、大きな金額の借入がある場合、その契約書や明細書が届いていることがあります。
また、公共料金や税金・保険料の請求書(電気・ガス・水道など)も含めて、過去の未払いがないかどうか確認することも有用です。これらの請求書が被相続人の名義で届いており未払いの場合は、相続人が支払義務を負うことになります。
郵送物を調べる際の注意点としては、被相続人が亡くなったあとも郵便物の転送手続きをして、相続人か受け取れる状況を3か月から6か月は継続しておくようにしましょう。自宅の郵送物から全ての債務を発見できるとは限らないため、定期的に届く郵送物もしばらくはチェックして、上記の相続債務に関連する書類が届かないかどうかを注意深くみておく必要があります。自宅に届いている郵便物を隅々まで調べるだけでなく、定期的に届く郵送物にも目を光らせて債務に関連する書類を見逃さないようにしましょう。
4 ポイント3:被相続人が保管している通帳の記載をチェックする
被相続人が所有していた通帳や証書は、相続債務を調査するうえで非常に重要です。通帳には、被相続人がどのような金融取引を行っていたか、また、未払いのローンが残っているかどうかなど、債務に関する情報が記載されています。
通帳で確認すべきポイント
借入の記録:借入金が入金された履歴や、ローン返済に関連する取引が記録されている場合、その債務が確認できます。例えば、金融機関からの振込金や、ローン返済の引き落とし記録が見つかることがあります。
口座引落の記録:口座引落の記録を確認すると、定期的に口座引落しが行われている支払先が判明することが多いです。そして、口座引落しの方法によって定期的に支払っている支払先に対して未払いの負債がある可能性があります。口座引落しの記帳においては支払先がカタカナで記載されていることも多いため、それを手がかりに調査することも有効です。
振込履歴:個人名などの詳細不明な振込先への支払いがある場合、そこが借金の返済先である可能性があります。個人名の支払先が判明した場合でも、通帳のみからは情報が少なくてその個人を特定することは難しいといえます。そのため、通帳以外の自宅で見つかった金銭消費貸借契約書やメモなどを手がかりにして、その個人からの借り入れがないか否かを調査する必要があるといえます。
通帳を調べる際の注意点としては、通帳がなくインターネットバンキングなどのネット上の取引履歴しか存在しない口座の場合には、通帳がそもそもないため負債を見落とす可能性あります。インターネットバンキングの場合には、登録されているメールアドレスに銀行からメールが送られてきていることが多いため、メールでを手がかりにして、銀行から取引履歴を取得して負債の有無を調べることも有効です。
また、貯金だけでなく、クレジットカードの利用明細やローンの返済に関する記録も併せて調べることで、より詳細に債務状況を把握することができます。
5 まとめ
相続債務を調査する際には、信用情報機関への照会、被相続人の自宅の郵送物の確認、通帳のチェックの3つの方法を併用することで、より正確に債務状況を把握することができます。これらを十分に調査し、相続債務を確実に把握することで、相続人が予期しない負担を避けることができ、スムーズな相続手続きを進めることが可能になります。相続は法的に複雑であるため、専門家のアドバイスを受けることも重要です。